井上弘樹・伊藤嘉高『診療情報管理士になりたい人のために―基礎科目(臨床医学)解説付き問題集』(共著)

前任校(新潟医療福祉大学)の仕事の成果(その2)です。内科医の井上弘樹先生との共著です。私自身は診療情報管理士の教育に携わっていませんでしたが(診療情報管理士の資格は取りましたが、私が担っていたのは診療報酬請求事務能力認定試験でした)、学生が一生懸命に勉強しているのに臨床医学の知識がなかなか身につかない状況を端で見ていました。

どうして臨床医学の知識が身につかないのか。学生に探りを入れてみると、公式のテキストや問題集に詳細な解説がないために丸暗記型の勉強になってしまっていることが原因のひとつでした。

そこで、この問題意識を共有する井上先生とともに、本邦初の詳細な解説付き問題集を作成することになりました。問題のサンプルを含む詳細については、前任校の学科ブログで記事にしています。

この記事では、以下に、本書のまえがきを掲載します。

書誌情報

井上弘樹・伊藤嘉高, 2022,『診療情報管理士になりたい人のために―基礎科目(臨床医学)解説付き問題集』ウイネット(473ページ、4,500円+税)

本書は新潟医療福祉大学での買取のため、出版社には在庫がありませんが、何部かは外部の方にもお分けできます。詳しくは出版社サイトをご覧ください(外部の方にお分けできる在庫もなくなりました)。サンプルもあります。

『診療情報管理になりたい人のために―基礎科目(臨床医学)解説付き問題集』ウイネット

本書のコンセプト

本書は、診療情報管理士を目指す方のために編集された「基礎科目」の解説付き問題集です。日本病院会によるテキストは、「医療概論」「人体の構造と機能」などとともに臨床医学の全章が約800ページにコンパクトに収められています。したがって、詳細な記述がなされている疾患がある一方で、多くの疾患の記述が事実の羅列にとどまってしまっています。初出の専門用語に何の説明もない場合も珍しくありません。その結果、「どこが大切なのか」「どうしてその症状が出るのか」「どうしてその検査が必要なのか」がとても分かりづらくなっています。

認定校の教育にしても、通信教育にしても、限られた授業時間ですべての疾患をフォローすることはできません。そこで、認定校に通う学生も、通教生の方も、テキストによる自己学習により知識を深めようとするわけですが、理屈が理解できなければ、どうしても丸暗記型の勉強になってしまいます。もちろん丸暗記しようとする胆力も必要です。しかし、丸暗記に頼るだけでは非効率です。何よりも、実務で必要となる、それぞれの疾患に対する深い知識に根差した応用力が身につきません。

そこで、本書の登場です。本書は、医療概論などを除き、基本的に1疾患ごとに問題を作成しています。問題の順序は、テキストの並びに従っています。そして、疾患別の問題の選択肢は、すべてが重要なポイントです。「誤っているものは?」の問いの場合は、原則として、誤っている選択肢がとくに重要なポイントです。

さらに、この問題集には、(ポイントを丸暗記することなく、自分の知識として定着させるために必要となる)基本的な発症機序・作用機序を理解するための解説をつけています。解説のうち、【参考】の上に書いてあるものは、一緒に理解・記憶しておくべき事項、知識を指しています(つまり、試験に出るような重要な事項、知識であるということです)。【参考】の下に書いてあるものは、テキストには書いていませんが、理解や記憶の助けになる情報です。

本書の使い方

したがって、まずは、各選択肢や解説の言葉をテキストから探し出し、暗記用マーカーペン(色つきのシートを載せると、マーキングしたところが消えるもの)を引きましょう(誤っている選択肢については、正答の言葉を探します!)。そして、テキストを読んでも理解できなかった箇所の余白に、自分の言葉で本書の解説を書き込みましょう(意味を理解しないと、丸暗記になってしまい、力がつきません!)。また、とくに「人体の構造と機能」については、図で理解することが不可欠です。授業中の資料などを参考に、自分で図を書き込んでいくことも大切です。

さらに、授業前に本問題集に取り組んでおくことで、授業のポイントが理解しやすくなるでしょう。意味が分からなくても、脳に「これは大事な情報なんだ」と思わせることで、授業の内容が頭に入りやすくなります。授業後の復習にも活用できます。繰り返し学習することで、新たな知識を学んだときも既存の知識と結びつけて理解できるようになり、効率的に勉強できるようになります。いずれにせよ、試験前に詰め込むのではなく、普段から日常的に予習と復習を行うことが大切です。

もちろん、自作ノートを作ることができればベストです。ただし、すべての疾患について、順番に細かなノートを作って理解していこうとすると挫折してしまうおそれがあります。本書では、各疾患・問題を【必修】と【基本】に分類しています。【必修】は単に認定試験でよく出る問題であるだけではなく、臨床医学を体系的に理解するための必修知識であることを示しています。まずは、【必修】とされている疾患や、自分が関心を持った疾患から調べていくといったように、自分の気持ちに従って勉強していきましょう(とくに【必修】の疾患については、本書に記載されていない事項も可能な限り頭に入れましょう)。ただし、「人体の構造と機能」については、3章以降を効率的に学ぶために、【基本】問題も完璧に理解してください。本試験での得点源にもなります。

また、本書では、理屈では覚えられないカタカナの疾患などについて、語呂合わせや連想記憶法を載せています。どうしても覚えられないものについては、これらを参考にして、自分なりの語呂合わせや連想記憶を作り出して覚えていきましょう。

目指すべき目標

この問題集の問題をすべて正解できるようになれば、それだけで認定試験は十分に合格できます。しかし、単に問題の答えを覚えるだけ(手続き記憶)では、試験本番で別の形式で問題が出てきたときに対応できませんし、何より応用力がつきません。したがって、目指すべき目標は、疾患名をみただけで、その疾患のイメージができて、選択肢に上がっている大切なポイントが頭に浮かぶようになるまで理解を深めることです。

そのためには、間違いの選択肢がなぜ間違いなのか、正しい記述は何なのか、それ以外の正解の選択肢の背景にどのような仕組み・機序があるのかについて理解できているかを確認しながら本問題集に取り組むことが必要です。決して本問題集の問題に正答できることを目標にしてはいけません。このレベルで勉強すれば、知識が少しずつつながっていき、記憶も定着しやすくなり、段々楽しくなります。

最初から完璧に理解できる人はいません。最初は「こんなに覚えられるわけがない」と途方にくれると思います。それでも自分のことを信じて繰り返し学習することで、無意識のうちに知識が整理され、ある日から一気に理解と記憶ができるようになります。ぜひ、その経験を味わってください! 専門職には、常に学び続けることが求められます。ぜひ、まっとうな勉強方法を身につけて、着実なキャリア形成を実現させてください。

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