「『移動の時代』における看護職員の就労構造と就労支援」『日本医療・病院管理学会誌』 掲載

伊藤嘉高, 田中幸子, 大嶋聡子, 2010, 「『移動の時代』における看護職員の就労構造と就労支援」『日本医療・病院管理学会誌』47 (4): 17-24.

要旨

「看護師不足」が広く認識されるなか,看護職員への離職防止,定着促進策が種々講じられている。そうした動向の背景には,病院の看護職員の年齢構成がいわゆるM字カーブを描いておらず,30歳代から一貫した低下傾向にあるとの認識がある。

しかしこの認識は全国的には必ずしも当てはまらず,山形県のデータではM字カーブを描いている。本研究では,この山形県の看護職員の年齢構成を子細に分析した。その結果,山形県でも都市部の急性期病院は30歳代から一貫した低下傾向にあるものの,地域間の転職・再就業の流れが地方部の重要な人材供給パスになっており,結果として県全体でM字カーブになっていることを明らかにした。山形県におけるM字カーブは必ずしも離職防止・定着促進の結果ではない。

したがって,今後の看護政策には,急性期病院に目を向けた「固定化」策だけではなく,個々の看護職員の移動を視野に収めた施設横断的な就労支援策も求められる。

冒頭抜粋

いわゆる「看護師不足」が広く喧伝される今日,看護職員に対する就労・復職支援の制度的な枠組みが求められるようになっている(以下,本稿では,看護師,助産師,保健師,准看護師の看護職従事者を合わせて看護職員と呼称する)。たとえば,2009年3月に発表された厚生労働省の「看護の質の向上と確保に関する検討会中間とりまとめ」では,①入学定員割れや中退の防止,②新卒就業者の離職防止,③新卒以外の就業者の定着促進,④潜在看護師の再就業の促進などが看護職員確保の課題として挙げられている1

ところで,こうした離職防止,定着促進をうたう議論においては,しばしば,「看護師不足」の理由として,病院の看護職員の年齢構成がいわゆるM字カーブを描いておらず,30歳代から一貫した低下傾向にあることが引き合いに出されてきた。そして,その「看護世界の特殊性」を前提にして就労支援のありようが論じられてきた。

しかしながら,(全国レベルでの需給予測はともかくとして)看護職員の需給構造は,各地域の地域性や就業施設の特性によって千差万別である。看護職員に対する就労支援等の看護政策についても,この地域特性を抜きに語ることはできない。これが本稿の屋台骨をなす問題意識である。

そこで,本稿では,山形県を対象に,全国・東京との比較を踏まえながら,二次医療圏別,施設の医療機能別に看護職員の就業構造(今回は年齢構成からアプローチする)を定量的に見ていく。そして,施設間,地域間の転職・再就業の流れが地方部における医療施設の人的資源の重要な供給パスになっていることを明らかにする。その上で,以上の結果が今後の看護職員就労支援に対して与える示唆についても検討を加えることにしたい。……

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