「自治体病院再編に対する住民サイドからの事後検証―置賜総合病院を核とした自治体病院再編を対象にして」『日本医療・病院管理学会誌』49巻4号掲載

伊藤嘉高, 村上正泰, 佐藤慎哉, 新澤陽英, 嘉山孝正, 2012, 「自治体病院再編に対する住民サイドからの事後検証―置賜総合病院を核とした自治体病院再編を対象にして」『日本医療・病院管理学会誌』49 (4): 27-36.

要旨

山形県置賜地域における公立置賜総合病院を核とした病院再編は,今日の自治体病院再編の先鞭をつけた成功事例として知られる。本研究では,これまでなされてこなかった医療需要サイドからの評価を統計学的に明らかにし,病院集約化の事後検証を行った。

その結果,若干のアクセスを犠牲にした置賜総合病院への集約化による医療提供は,住民側からも評価されていることが明らかとなった。しかも,アクセスについても再編によって大きな支障は生じていない。さらに,置賜総合病院における高度な専門医療の充実を求めながらも,それ以上に長期療養のための施設の整備を求める声が強い。急性期病院のみでは対応できない慢性疾患に対する不安も高く,置賜総合病院とサテライト病院の機能分化についても住民のニーズにマッチしている。

これらの結果により,医療需要側である地域住民からみても,置賜総合病院を核とした再編が概ね評価されていることが確認された。

冒頭抜粋

2000年代中頃より, 都市・ 地方の区別を問わず,地域医療の「崩壊」 が至るところで喧伝されている。具体的には, 地域の医師不足, 医療機関( 診療科)閉鎖, いわゆる救急患者の「 たらい回し」(正確には「 受け入れ不可能」)といったケースが全国各地で相次ぎ,広く国民の関心を集めている。

そうしたなか,総務省は2007年12月に「公立病院ガイドライン」を作成し,経営形態の見直し,経営効率化,再編・ネットワーク化の推進を打ち出した。そして,各地の自治体病院は,このガイドラインに基づいた具体的な改革プランの策定が求められることになった。

実際,不採算医療を抱える自治体病院の経営環境は厳しく,今日まで医業収支は大幅な赤字が続いている。 また,1950~60年代に建設ラッシュが続いた自治体病院は建て替えの時期に来ており,その資金調達も困難になっている。また,新臨床研修制度を契機とした医師の引き揚げもあいまって,多くの地方自治体病院では,医師数の減少と診療機能の低下が進み,医業収益も減少し,さらに診療機能の縮小が進むという負のスパイラルの淵にある。

さらに,厚労省サイドでも,それまでの診療報酬改定によって,すでに病院再編への先鞭をつけていた。すなわち,医療の高度化も背景にしながら,各医療機関を得意分野に特化させつつ( 機能分化),地域内連携を推進させることで,平均在院日数の短縮や病床数の削減を求め,事実上,急性期病院として生き残るか,急性期病院を後方で支える医療機関……

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