杉島敬志編『コミュニケーション的存在論の人類学』臨川書店、2019年。
概要
存在は単独で存在するのではなく、コミュニケーションやゲームとともに立ち現れる――人類学理論の中心をなす「存在論」の議論を拡張し、現代人類学が進むべき未来を模索する。国立民族学博物館共同研究の成果を書籍化。
短感
存在論的転回には、ヴィトゲンシュタイン以降の規則論(複ゲーム状況論)が欠如していると批判し、数々のフィールドワークの成果とともに「コミュニケーション的存在論」が提唱されています。
この文脈のなかでアクターネットワーク理論(ANT)も、「参与観察者は……ANTのように非当事者の考える世界の本当の姿(実在)をふりかざして当事者を啓蒙することも、批判もしない」とされていますが、これは注11にあるように、『社会的なものを組み直す』におけるANTとは異なるものです。
もちろん、同書の批判はまっとうであり、ANTから存在様態論に至る道筋は、本書と軌跡を一にしています。「パースペクティヴ主義はシャーマンを権威とするコミュニケーションやゲームにおける存在の立ち現れなのである。……E・V・カストロが語るパースペクティヴ主義は、他にも数多くあるはずの存在論的コミットメントのひとつにすぎない。」(p.31)
ラトゥールのANTが面白いのは、グレマスの物語論に依拠しながらも、決して、反実在論の立場から議論を展開しているわけではないことです。つまり、実在それ自体を「(物語という名の)括弧に入れてしまう」(p.56)のではなく、物質と形式の無限の変換のなかに位置づけているからです。
いずれにしても、本書では、「存在は単独で存在するのではなく、コミュニケーションやゲームとともに立ち現れる」さまが、各章のフィールドでそれぞれに描き出されており、現代人類学の最前線が追体験できる一書でした。