今朝の山形新聞を読んで驚いた。「県の「お見合いサービス」登録者数、過去最多の伸び 8月43人増」の記事である。以下、一部引用する。
少子化対策の一環として県が推進する結婚支援事業で、お見合いサービスへの登録者数が8月末現在で前月比43人増の175人と、過去最多の伸びとなったことが県のまとめで分かった。県は結婚支援の新拠点「やまがた結婚サポートセンター」の業務が本格化したほか、登録代行を担うボランティアが活動を開始した成果とみており、9月以降のさらなる登録者数アップに期待する。
8月に男性29人、女性14人が加わり、登録者は8月末現在、男性133人、女性42人。30代が79人、40代が75人と30~40代が全体の9割を占める。サービスは県の委託を受けた「やまがたお見合い支援センター」が2011年1月に開始、今年5月からは新設された結婚サポートセンターが引き継いだ。
同センターが結婚希望者の同意を得た上で職業、自己PR、相手に望む点などの情報を登録、希望に合致する相手同士のお見合いを企画する。同センターはホームページ、イベントなどを通してサービスの周知を図っており、7月下旬からはお見合いのセッティング業務を本格的にスタート。既に8組がお見合いした。
さらに登録代行、お見合いの立ち会いなどを担うボランティア「ハッピーサポーター」が7月下旬から活動を開始。県内各地に配置された9人、9団体の紹介で登録に結び付いたケースが相当数あるという。県子育て支援課は「結婚希望者へのきめ細かいフォローが可能になっている。希望者は気構えることなくサービスを利用してほしい」としている。
「やまがた結婚サポートセンター」は吉村美栄子県知事の肝いりで設立され、運営は山形法人会に委託。同センター運営委託費として県は2012年度予算に約1,500万円を計上しており、記事中の「お見合いサービス」には無料で登録できる(登録方法はセンターのウェブサイトに記載されている)。
私が気になったのは登録会員数の男女比である。8月に若干女性が増えているが、それまでの男女比は3.7:1.0で、男性約4名に対して女性1名の比である。これほどまでに女性優位だとは思わず、実際の未婚者の状況を調べてみることにした。
若年未婚率―山形県は代表的な早婚地域
まず婚期の時期をみるために、平成22年の国勢調査から男性31歳、女性29歳の未婚率(結婚したことがない者の割合)を都道府県別に算出し比較した。なぜ、31歳と29歳の値を見るかというと、年齢各歳別の未婚率の全国値を調べてみると上記の年齢で未婚率が50%を下回るに至るため、この年齢が平均的な婚期の基準値となると考えたからである。
上図では中央に全国値が位置しており、縦軸(女性未婚率)、横軸(男性未婚率)それぞれに向けて基準線が引かれている。つまり、
- 図の右上:男性、女性ともに婚期が遅い。東京都、京都府が代表的で、神奈川県、奈良県などが位置する。
- 図の左上:男性の婚期は早く、女性の婚期は遅い。福岡県が代表的で、大阪府、兵庫県などが位置する。
- 図の左下:男性、女性ともに婚期が早い。宮崎県や山形県が代表的で、中国・四国地方、九州・沖縄地方、中部地方の多くの県が位置している。
- 図の右下:男性の婚期は遅く、女性の婚期は早い。茨城県や山梨県など、関東、甲信越地方の県が位置している。
山形は、男女ともに婚期が早い県であることが分かる。ちなみに、図の右上の都道府県に住んでいて「まだまだ適齢期の異性は多くいる」と思って、図の左下に位置する山形県などに移住すると、なかなか大変なことになるかもしれない(とくに独身男性の場合、東京都と山形県の女性の未婚率は約15ポイントも違う!)――
生涯未婚率――山形県は生涯未婚率の男女差が大きい
次に、男女ともに50歳の未婚率をみる。一般に50歳以上に初婚を迎えるケースはごく限られていることから、50歳時点の未婚率は「生涯未婚率」として扱われる。
上図は、この生涯未婚率(平成22年国勢調査より計算)について男女差が大きい都道府県から順に並べたものである(図をクリックすると拡大されます)。最も生涯未婚率の男女差が大きいのは岩手県で15ポイント近くの差が見られる。なお、男性の生涯未婚率だけで見れば東京都は岩手県を1ポイント上回っているが、女性の生涯未婚率が断トツで高いため、男女差は大きくない。
なぜこれだけの未婚率の差が生じるのだろうか。理由は、(1)出生数の男女差(約5%)と(2)婚期の早さの違い(婚期が早ければ、独身者の母数が減り、自然数の差の占める割合が大きくなる)が大きな要因であろうが、ほかにも、(3)社会的移動の男女差、(4)男性の再婚率の高さ、(5)女性の婚期の相対的な早さ(晩婚化の影響にラグが生じる)が挙げられるだろう。以下は、山形県における年齢別の配偶関係の構成率を見たものである。
このように、女性は離死別率が高く、未婚率と離死別率を足した値(独身率)を見れば、50歳時点で男性が25%、女性が16%となり、生涯未婚率よりも差は縮まる。さらに、この配偶関係の絶対数を見たのが下図である。
絶対数で見ると、男性の未婚者数の多さがよく分かる。各年代ごとに男女別の未婚者数(独身者数)を合計すると次のようになる。
本記事の婚活登録者の90%を占める30~40歳代では、男性の独身者が1万5千人も多く、男性の31%が余剰(!?)である。さらに、離死別者を除いた未婚者に限れば男性の方が2万人も多くなってしまう(余剰率47.4%)。結婚を望む独身男性にとっては厳しいデータであるが、とにかくも結婚を望むのであれば、相手の結婚歴にはこだわっていられないだろう。
独身者の年間所得
記事中では「希望に合致する相手同士のお見合いを企画する」とあり、実際に登録シートをみてみると、年齢、身長、血液型、学歴、職業、年収、家族構成などが挙げられている。ここでは、データの把握しやすい年収について見る。
週刊ダイヤモンドの記事によれば、(高収入ではなく)「平均的な年収を希望する」女性が実際に相手に望む年収は30歳代で693.4万円、40歳代で727.2万円であるという(余談ではあるが、残念ながら、私の年収では、この希望には応えられない)。
では、山形県の独身者の年収は実際にどの程度なのだろうか。そのものズバリのデータが見当たらなかったため、平成19年就業構造基本調査から単身世帯の年間所得を確認する(残念ながら、男女別のデータではない)。
少し低めに600万以上の割合をみても、30歳代では13%(約1,600人)、40歳代でも18%(約1,600人)しかおらず、まったく「平均的」ではないことがわかる(このなかに女性がまったく含まれていないと極端に仮定しても、割合は倍になるだけである。しかも、これらの年収層が必ずしも婚活をしているとは限らない)。
ちなみに、この600万という基準を小倉千加子はこう解説している。すなわち、(首都圏で)会社員として働いている自分の年収は300万円あり、結婚によって主婦になるならば、300万円の損失が生まれることになる。その分を男性には稼いでもらいたい。さらに、今の自分の年収より低い男性は尊敬できない。したがって、300万円+300万円以上=600万円以上になるというわけである。
実際の未婚女性が相手に望む年収は高くない
ただし、山形の婚活女性もまた同様の希望を持っているとするならば、冒頭で見た県のお見合いサービスの男女比を持ってしても、女性からみれば、(年収だけでみても)「希望に適う男性が全然登録されていない」ということになるのだろう。
とはいえ、上記の希望年収は、結婚相談所「ノッツェ」(入会金8万円、月会費1.35万円)を運営する(株)結婚情報センターが会員を対象に行った調査である。したがって調査対象者は条件志向が強く、必ずしも未婚女性を代表するものではないだろう。
そこで、一般的な独身女性が相手に希望する年収を調べてみよう。データはやや古いが、「少子化時代の結婚関連産業のあり方に関する調査研究」である。ここでは、同調査の20~44際の一般独身者の個票データを分析した水落正明の研究(2010)を利用する。
同調査では、まず「相手の年収を気にするか」を聞いており、「少なくとも何万円以上という具体的な金額がある」、「自分より年収が高い」、「自分より年収が低い」、「その他」、「気にしない」の選択肢が用意されている。
水落は、「自分より年収が高い」の回答者については回答者自身の年収を採用し、「気にしない」の回答者については「希望年収ゼロ」として扱うことで、次のような最低希望年収累積曲線を描き出している。
いずれの地域も年収600万円以上が最低条件だとする女性は、0~4%程度にすぎないことがわかる。また、北海道・東北と中国・四国・九州は、他の地域も年収条件は緩やかであり、300万未満でよいとする割合は、関東49.3%に対して、北海道・東北は62.8%、中国・四国・九州は69.2%に達している。さらに、400万未満に幅を広げると、関東でも70.1%、北海道・東北は84.0%、中国・四国・九州は88.4%となり、大多数の女性の希望を満たせることになる(あくまで「最低」希望だが……)。
(なお、一定以上の年収(「最低○○万円以上」、「自分よりも高い」)を求める者の割合は、34歳までは80%前半を維持し、35歳以降、大きく減少していき、40~44歳では71.3%になる。)
以上を受けて山形県の単身男性の年収(2007年調査)に再び目を向けると、年収400万円以上の割合は、30歳代で27.6%、40歳代で40.0%、さらに、年収300万円以上でみると、30歳代で45.7%、40歳代で55.6%となり、男女の絶対数の差を除けば、経済条件によるミスマッチはほとんどないと言えるだろう。
したがって、「女性が経済面で高望みをしている」などとして結婚にシニカルになっている男性は、現実を直視していない可能性がある。現実から目を背けるのではなく、(結婚したいならば)相対的な経済条件は脇に置いて、自らのさまざまな人間的魅力や人間的度量を見つめ直し、さまざまな出会いを求めていくことが必要なのではないだろうか。しかし、こう言いつつ、最後に次の文章を引用せずにはいられない。
女子学生は、現在の自分の生活水準を保証してくれる男を探し、男子学生はユートピア的場所となる女を探す。しかし、そんな理想の相手はどこにもいない。いやしかし、理想の相手を見つけて幸福な結婚をしている人が現にいるではないか。自分はなぜそこから閉め出されるのか。なぜ夢を追ってはいけないのか。夢を実現した一部の者への復讐の時代がこれから始まると、私は密かに覚悟しているのである。(小倉 2007: 190)
今回の書籍
定価:¥ 462 新品最安価格:¥ 462 (1店出品) 売上ランク:10232位 レビュー平均:4.4点 (58人がレビュー投稿)
出版日:2007-01 出版社:朝日新聞社出版局 作者:小倉 千加子 | ||||
by 通販最速検索 at 2013/06/06 |