「モビリティーズとネットワーク」『モビリティーズの社会学』刊行

拙稿「モビリティーズとネットワーク」を所収頂いた『モビリティーズの社会学』(吉原直樹・飯笹佐代子・山岡健二郎編)が有斐閣より刊行されました。

本書は、2011年に伊豫谷登士翁先生と吉原直樹先生が立ち上げた「モビリティ研究会」の成果です。当初はそれぞれのゼミ生・門下生が集まっていましたが、やがて他のメンバーも加わり、ディシプリンの垣根を超えた多岐にわたる議論が展開されるようになりました。

吉原先生の不肖の弟子である私はといえば、研究の軸足を医療分野に下ろしてしまったこともあり、やがて研究会にも参加できなくなっていました。ところが、アクターネットワーク理論を介して再び研究会の議論とつながり直すことができ、今回の企画にも加えていただきました。

本書では、アジアやアフリカにおける多様な移動(モビリティーズ)を描き出すことで、逆説的にも、西欧/非西欧の対立図式、ひいては西欧中心主義的なモビリティーズ・スタディーズからの脱却を図ろうとしています。

書誌情報

  • 伊藤嘉高(2024)「モビリティーズとネットワーク」吉原直樹・飯笹佐代子・山岡健二郎編『モビリティーズの社会学』有斐閣、pp.51-70.

拙稿要旨(冒頭抜粋)

モビリティーズの社会学が描き出そうとするのは、ヒトやモノが脱領域的に移動しつながることで、ヒトやモノそのものが予期せぬかたちで相互変容し、新たな結びつきが創られていく多様な動態である。そうした、異種混淆的で多様な動態を描き出すためには、研究者が用意した外在的で静的な概念(「主体」や「客体」、「構造」や「生きられた世界」)を単純に用いるのでは不十分である。つまり、研究者自身の営み(研究法や概念)もまたモバイルでなければならないということだ(Urry 2007=2015; 吉原 2022)。

そこで、本章では、モビリティーズの社会学の源流のひとつであるアクターネットワーク理論(ANT)に目を向け、ANTの意義を明らかにするとともに、モバイルな地域社会研究の方法の一つを提示する。第1節でモビリティーズの社会学に対するANTのインパクトを概説し、第2節でANTに基づく「地域社会」のモバイルな記述の実践例を示す。そして、第3節では「万事を流動化させようとするだけでは固定された堅固な構造に対する批判力を持ち得ない」と非難されるANTの批判力、つまりはモビリティーズの社会学の批判力を明らかにする。

全体目次

序 章  いま,なぜ,モビリティーズか(吉原直樹・山岡健次郎)
 第Ⅰ部 モビリティーズの論点
第1章 モビリティーズへの基本的視座(吉原直樹)
第2章 モビリティーズとベック──メタモルフォシス理論とは何か(伊藤美登里)
第3章 モビリティーズとネットワーク(伊藤嘉高)
第4章 モダニティの両義性と複数性(山岡健次郎)
 第Ⅱ部 グローバリゼーションからモビリティーズへ
第5章 ケア労働,モビリティーズ,ジェンダー──フィリピン人労働者の経験から(小ヶ谷千穂)
第6章 国民国家の変容と再編──アフリカからの視点(武内進一)
第7章 ディアスポラとデジタル・ナショナリズム──イボ人ディアスポラによるビアフラ分離主義運動を通して(松本尚之)
第8章 難民キャンプのモビリティーズ──アフリカにおける境界的空間(村橋勲)
第9章 難民を翻弄するオーストラリアの境界政治──収容の海外移転・新植民地主義・新自由主義(飯笹佐代子)

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