「自主防災組織結成による町内会活動の変容とその課題―東日本大震災直前の盛岡市内町内会を対象にして」『東北都市学会年報』掲載

伊藤嘉高, 2013, 「自主防災組織結成による町内会活動の変容とその課題―東日本大震災直前の盛岡市内町内会を対象にして」『東北都市学会年報』13: 1-15.

要旨

本稿では、東日本大震災直前の時期における盛岡市(旧玉山地区除く)の町内会および自主防災組織に焦点を当てて、大規模な質問紙調査により、自主防災組織の結成による地域防火・防災活動、さらにはコミュニティ活動の変容を定量的に明らかにした。

まず、都市部の盛岡地域を中心に、自主防災組織の結成を契機とした防火に対する意識の高まりが認められた。また、自主防災組織の結成が町内会による防災活動の取り組みを活性化させている。ただし、自主防災組織を結成していても、高齢者世帯等の把握(要援護者支援)や住民間の連絡方法の取り決めがないケースも30~40%程度見られる。防災マップないしハザードマップを有していないケースも40%程度存在している。そして、自主防災組織の結成が地域コミュニティそのものの活性化につながるという理想的な状態に至っていないことも明らかとなった。この結果は、町内会単位の自主防災組織の結成が、規模やノウハウの面で限界があることを示唆しているとも取れる。

したがって、今後の行政は、結成率の議論もさることながら、自主防災組織や町内会等の防災活動の内実、さらには消防団との関係についてさらに詳細に把握していくことが必要である。盛岡市の場合は、町内会単位の自主防災隊と学区単位の自主防災会との連携も大きな問題である。その際には、災害と防災に熟知したNPOによる支援の方策を取り入れていくことも求められる。

冒頭抜粋

防災活動や災害救助における地域住民組織による「自助・共助」の重要性が指摘されて久しい。ただし、その核とされる自主防災組織については、災害発生時に実質的に機能するのはせいぜい1~2割にとどまるという指摘がある。一部の熱心な町内会で結成された自主防災組織を除き、ほとんどの自主防災組織では、行政等が作成した統一の手引きに従い、役員名簿を作成し、避難場所など最低限のルールを策定するレベルにとどまっているからだ。熱心なところでも、災害時の避難訓練の実施がせいぜいなのである(伊藤 2011: 216; さらに、菱山・吉原 2008、浦野 2008も参照)。

また、本稿でみる盛岡市には当てはまらないが、県レベルで結成率の向上を掲げているために、市町村によっては、地区の自治会長を集めて一斉研修を行い、形式だけを整えさせて、結成率100%を達成しているところもある。そうして結成された自主防災組織では、「作ってはみたものの、何をしていいのか分からない」状態に陥っている。したがって、自主防災組織の結成率それ自体に本質的な意味を見いだすことはできない(伊藤 2011: 214; さらに、庄司 2011も参照)。

とはいえ、自主防災組織結成による町内会等の地域防災活動の変容について、これまで定量的データに基づき十分に検討されてきたとは言いがたい(町内会の地域防災活動の概況について、石沢 2011を参照)。東北地方都市(仙台市、山形市、青森市)を対象に自主防災組織の有無により町内会による防災活動の異同を検討した板倉(2009)によれば、自主防災組織を有する町内会の多くは、防災活動は活発であるがその範囲は限られており、行政側からの呼びかけや指導に従って行われているにすぎない可能性があるという(大矢根 2008も参照)。

そこで、本稿では、東北地区では早くから行政主導による表面的な結成率にこだわらず柔軟な組織編成がなされてきた盛岡市を取り上げ、東日本大震災直前の時期における町内会および自主防災組織を対象に、地域防災活動の現状、ならびに、自主防災組織の結成による地域防火・防災活動、さらにはコミュニティ活動の変容に焦点を当てて、その実際を量的に明らかにした(震災時の対応についての質的な調査として、庄司・伊藤 2012を参照のこと)。そして、そのなかから、今日の盛岡市における防災活動の課題についても検討した。

本稿の元となる調査は、筆者ら東北都市社会学研究会が2010年6月1日~6月30日にかけて、玉山地区を除く市内町内会(335町内会)を対象に実施した質問紙調査である。玉山地区が調査対象から外れているのは、調査に協力頂いた盛岡市町内会連合会の組織範囲から外れているためである。回収率は57.6%であった。町内会の組織構成・機能などの基本的な調査結果の概要は東北都市社会学研究会(2011)、吉原編(2011)にまとめられているので、ここでは繰り返さない。本稿は、上記調査に、独自に盛岡市から情報提供を受けた自主防災組織の結成状況のデータを加えて新たに分析を行ったものである。……

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