バルネラビリティを可視化する保健師~板倉有紀著『災害・支援・ケアの社会学』御恵送

板倉有紀著『災害・支援・ケアの社会学』生活書院、2018年。

概要

災害時要援護者・災害弱者というカテゴリーでは拾えない「曖昧なニーズ」の典型としての「災害とジェンダー」。自然災害の被害とニーズを、地域単位の災害対応における被災者ニーズへの対応(=被災者ケア)という問題に即して検討し、保健師という職能の持つ可能性を提起する。

短感

同門の板倉有紀さんからご恵送頂きました。被災地支援や地域包括ケアの実践において数々の人やモノを巻き込んでいくという点で、(ジェンダーなど)複数の視点を取り込める社会学研究者だからこそ果たしうる役割がある。そのことが本書から見えてきます!

本書では、まずは、自身が大学院生時代から注目してきた「バルネラビリティ論」による災害弱者支援施策の現実に目を向け、それが一面的になりがちな危険性が指摘されます。バルネラビリティはまさに置かれた状況の中で個別具体的に立ち現れるものであり、制度的・政策的な対応の難しさが浮き彫りにされます。

そこで、板倉さんが目を向けたのが保健師の地域活動です。本書では、東日本大震災下において、保健師が介在することで、とくに女性の不可視のバルネラビリティが可視化されていくさまが描き出されています。

私は、保健師の支援対象である「地域」(人びとの集合性)自体が、まさに当の保健師を媒介にして形成されていくという点で、きわめて地域社会学的な著作であると感じました。

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