ジョン・アーリ著(吉原直樹・伊藤嘉高訳)『モビリティーズ―移動の社会学』作品社。2015年3月刊。全訳。John Urry, 2007, Mobilities, Polity。
社会科学の空間論的転回に次ぐ「移動論的転回」を世に問うジョン・アーリの節目をなす著。移動がもたらす社会的諸関係の変容に焦点を当て、社会科学の理論と方法の新たな地平を展望するとともに、移動に対する物神崇拝に異を唱える。
「ジョン・アーリは、新たな社会科学のパラダイムを切り開いている。それは、領域が固定された社会に根ざした社会科学ではなく、移動に根ざした社会科学だ。アーリの手によるこの好著は、21世紀の社会学を一新する全系的で創造的な概念空間を生み出している」
―ウルリヒ・ベック
「ジョン・アーリは、移動の研究を、モダンライフを解き明かすための鍵としてきた。この鍵を用いて、本書では、モダニティのさまざまな側面に新たな光を当てるだけにとどまらず、アーリが実際に示しているように、社会学的分析、文化的分析の射程も大きく広げている。今後の議論の大きな展開を予感させる労作だ」
―ナイジェル・スリフト
「本書は重要な文献であるとともに希代の名著でもある。重要な文献であるのは、今や個別化した移動が先進世界における最も重要な社会的トレンドになっているからだ。そして、名著でもあるのは、本書がそうした移動がいかにして起こっているのかを、軽妙に余すところ無く、体系的に押さえているからだ」
―バリー・ウェルマン
書評
- 牧原出「世界の姿 どうとらえるか」『読売新聞』2015年5月3日
- 根井雅弘「動的な複雑性として捉える社会」『日本経済新聞』2015年5月3日
- 吉原直樹×吉見俊哉「新たな社会科学へ―「空間」に関するパラダイム・チェンジが行われている」『図書新聞』2015年5月30日
邦訳引用文献一覧
目次
第Ⅰ部 モバイルな世界
第1章 社会生活のモバイル化
- オン・ザ・ムーブ
- さまざまな「移動」
- システム
第2章 「モバイル」な理論と方法
- モビリティーズ・パラダイム
- ジンメルと移動
- 複雑性
- 他の理論的な資源
- 定住主義
- 流動性とノマド
- 移動する物質
- 移民とディアスポラ
- 快感/可動性
- モバイルな方法論
- 結び
第3章 モビリティーズ・パラダイム
- 新たなパラダイム
- 距離の隔たりに対処する
- 結び
第Ⅱ部 移動とコミュニケーション
第4章 踏みならされた道、舗装された道
- 歩くこととその社会的世界
- 街路を歩く
- 田園地方を散策する
- 結び
第5章 「公共」鉄道
- 公共の場で動くこと
- 移動の機械化
- タイムテーブル
- 空間
- 社交
- 結び
第6章 自動車と道路になじむ
- 小史
- 自動車移動とその自己拡大
- 自動車移動と時空間
- 居住性
- 自動車の政治学
- 結び
第7章 飛行機で飛び回る
- おおまかな時代区分
- リスクとシステム
- 空港空間
- グローバルな飛行線/逃走線
- 結び
第8章 つながる、想像する
- バーチャルな旅
- 想像による旅
- モバイル通信による旅
- 結び
第Ⅲ部 動き続ける社会とシステム
第9章 天国の門、地獄の門
- シティズンシップと不平等
- 「アクセス」
- ネットワーク資本
- 結び―移動と自由
第10章 ネットワーク
- スモール・ワールド
- イッツ・ア・スモール・ワールド―世間は狭い
- 知っているということ
- 社会的ネットワーク
- 結び
第11章 人に会う
- なぜ会うのか?
- 対面で話す
- 仕事の会合/ミーティング
- 家族や友人と会うこと
- 移動中のミーティング
- 結び
第12章 場所
- 療養者にとっての情動の場
- 視覚による情動
- 場所とネーション
- グローバルな旅行と場所
- 結び
第13章 システムと暗い未来
- 移動
- 未来
- 自動車、気候、破局的惨事
- 荒涼とした未来