昨年度の「社会調査実習」では、私が近年調査している「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)を対象に、学生たちにも調査してもらいました。1年間の調査結果をまとめた報告書が完成しました。
目次
サ高住とは?
サ高住は、自宅にこだわらずとも住み慣れた地域で住み続けられる「地域居住」の理想を実現する手段の一つとされています。サ高住に入居すれば、外付けの医療保険・介護保険サービスを「主体的」ないし「自律的」に利用することで住み慣れた地域に住み続けることができるとされ、2011年以降急速に整備が進められてきました。
ところが、他方で、サ高住の系列事業所による画一的な医療保険・介護保険サービスを半ば強制的に受けさせられ(いわゆる「囲い込み」の問題)、自律性を失ってしまう入居者が存在していることが指摘されてきました。そして、それらの問題に対しては、診療報酬制度や介護報酬制度を中心にさまざまな制度的な対応がなされてきました。
ただし、今回の報告書では、サ高住入居者の自律をめぐって、より根源的な問いにアプローチしています。つまり、「そもそも、サ高住に住む高齢者が地域のなかで自律的に生活するとはどういうことなのか」という問いです。
調査結果の概要
本報告書では、新潟市内のサ高住の居住者、職員、行政機関へのインタビュー調査を積み重ねるなかで、さまざまなヒトやモノとの「つながり」のなかで自律(できることが実際にできていること)が可能になっている姿を描き出しました。その上で、「囲い込み」そのものが必ずしも問題になっているわけではない実態も踏まえて、サ高住入居者の自律を可能にする条件は、サービス選択の自己決定を可能にする制度的対応というよりは、それぞれの自律を可能にする「つながり」を集団的に組み直していくことを可能にする「サ高住の自治」の構築にあることを指摘しています。
もちろん、本報告書の結論は暫定的なものにすぎません。今後、新潟においてもっと多くの多様な高齢者の方々の声を集めて可視化し、より多くの関心を集めていくことで、(絶対的な正解がないなかで)よりよい「生の自律」をともに構築していきたいと考えています。
追加情報1~学生によるブログ記事(2024.04.26)
実習に参加した学生がブログ記事「普段の生活では触れ合うことのない誰かとつながり、自分が変わる~社会調査実習」(人文学部学生プロジェクト・ブログ)を書いています。ぜひご覧ください。
追加情報2~新聞掲載(2024.05.24)
『新潟日報』(2024年5月22日号)で、昨年度の社会調査実習報告書『サービス付き高齢者向け住宅における「地域居住」と「生の自律」』が取り上げられました。
追加情報3~報告書を頒布しています(2024.05.25)
すでに複数のお問い合わせを頂いていますが、報告書の残部が若干あります。ご関心のある方は伊藤までお問い合わせください。お送りします。
追加情報4~調査継続中!(2024.07.26)
現在も、新潟市内のサ高住で調査を継続しています。「調査に協力してもよい」というサ高住の事業者様、入居者様がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。