「自己に正当性がある対人コンフリクト状況下における看護師の協働的対応」『医療コンフリクト・マネジメント』Vol.8掲載

山形大学医学部に在籍していた当時、中西淑美先生(総合医学教育センター)から医療メディエーションについて学ぶ機会がありました。共感(empathy)による協働という医療メディエーションの基本的発想は、奇しくも、アクターネットワーク理論のいう媒介(メディエーション)=翻訳と相同しています。

医学教育、卒後教育の分野において、従来の共感指標(Jefferson Empathy Scale: JES)を用いた調査では、「私にとって担当患者の視点に立って物事を見ることは難しい」といった設問への回答を求めており、いずれも正統的な知識があれば「正しい」回答ができてしまいます。

JESの重要性は論をまちませんが、中西先生と議論するなかで、そうした正統的な知識を問うばかりではなく、ついつい自己正当化したくなる「自分に非はない対人コンフリクト」においても共感的姿勢に根ざした協働的対応が取れるのかどうかという視点も必要ではないかとの認識に達し、山形県内の看護師の方々を対象に、この点についてはじめて調査を行いました(医学生を対象とした別稿も参照)。

論文中では、私は統計解析を担当しました。

文献情報

中西淑美, 伊藤嘉高, 2022,「自己に正当性がある対人コンフリクト状況下における看護師の協働的対応―社会的属性と医療メディエーション教育に着目して」『医療コンフリクト・マネジメント』8: 33-44.

要旨

対患者、対医療者とのコンフリクトをマネジメントする対人関係調整力は看護の重要な能力の一つである。この能力は、対人関係のコンフリクトを協働的な対話過程を実現して両者の信頼関係をマネジメントしようとする医療メディエーションにより高めることができる。この協働的対応により現場では、医療者間の満足度向上、患者死亡、再入院の低下、術後疼痛の低下などの臨床効果が生まれると報告されている。

私達は、山形県内でAlternative Dispute Resolution(ADR)学術研究会を定期的に開催し、医療メディエーション教育を行ってきた。今回、医療メディエーション教育の効果を検証するために、山形県内8病院の全看護師2,582名を対象に、対人コンフリクト時の対応と感情などに関する質問紙調査を行い、多変量解析を行った。

その結果は、コンフリクト頻度が高まる対象は、年上女性患者と年上男性医師であった。減弱要因は、医療メディエーション教育会参加(あり)と役職(師長)であった。コンフリクトへの対応行動は、年上女性患者、年上男性医師、年下女性看護師に対して、回避が各々59.8%、54.2%、51.8%、協働は15.3%、18.4%、24.9%であった。年齢、ADR研究会参加(あり)、管理職が協働的対応をもたらす因子として有意差を認めた。患者クレームへの感情については、協働的対応が心配、いらだち、疲弊を高めることはなかった。

以上の結果により、ADR研究会参加による医療メディエーション教育が看護師の対人コンフリクト・マネジメントに効果があることが示唆された。

この記事のタグ