「コロナ禍の「社会」を組み直す」『社会学研究』106号掲載

伊藤嘉高, 2021,「コロナ禍の「社会」を組み直す」『社会学研究』106: 37-56.

※特集「パンデミックの社会学」に掲載。

社会学研究106号

要旨

社会学はCOVID-19パンデミックをどのように扱うことができるのだろうか。本稿では、COVID-19で前景化している公衆衛生の集権性/個別性の相克という課題に対して、集権的な公衆衛生の意義を認めつつも、集権的な公衆衛生による単一の共同性/公共性の要求を避けるために社会学の果たすべき役割について、アクターネットワーク理論(ANT)の知見を手がかりにして検討する。

第一節では、COVID-19の科学的実在を検討することで、ANTが目指す「オブジェクティブな科学」の要諦をつかむとともに、今日の「社会」を科学的に検討するための条件を明らかにする。第二節では、ANTに根差した「物事の議会」論から共同性/公共性の形成に関する視座を得ることで、COVID-19の公衆衛生施策と経済政策をめぐる政治批判の条件を明らかにするとともに、「物事の議会」論の限界も指摘する。最後に第三節では、集権的な公衆衛生の論理がグラスルーツにおける地域社会の論理を覆い尽くしてしまうことの危険性に焦点を当てて、地域社会の共同性/公共性を構成する人間と非人間の多重性を生み出す事物の連関を促す社会学の役割を明らかにする。

COVID-19パンデミックのなかで、私たちは、新たな共同性と公共性とを集権的な場面でも非集権的な場面でもそれぞれに人間と非人間とでコストをかけて生み出していかなければならない。社会学には、そうした動きを作り出していき、そうした動きを支えていくための「足し算の批判」が求められている。

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