デュルケーム/デュルケーム学派研究会著、中島道男・岡崎宏樹・小川伸彦・山田陽子編『社会学の基本 デュルケームの論点』(学文社、2021年)の拙評が『保健医療社会学論集』第32巻2号に掲載されました。
冒頭抜粋
他者との共生の感覚が日に日に失われゆく今だからこそ、「社会学の基本」であるエミール・デュルケームに立ち返ってみる必要があるのではないか。なぜデュルケームは社会学を「確固たる科学」として打ち立てる必要があったのか。なぜデュルケームは社会学を必要としたのか。本書は、社会学の事実上の創始者であったデュルケームの論点を43個の命題に分けて解説をしている。43の命題は、デュルケーム本人の著作にとどまらず、デュルケームの同時代人の思想や、デュルケームの後継者、批判者たちの思想にも及んでおり、「デュルケームを中心とした社会学的思考の系譜」(p.i)がつかめるよう工夫されている。
まず、読者は、本書を読み進めることで、一つひとつの命題のなかにデュルケームの確固たる思想が通底していることに気づかされるだろう。各命題に通底するデュルケーム社会理論の全体像にも迫れるだろう。そして、教科書的に整理されるような全体像からは抜け落ちてしまうようなデュルケーム社会学の細やかさとも出会えるだろう。というのも、本書は、著者たちが所属しているデュルケーム/デュルケーム学派研究会の議論の結晶として生まれたからだろう。全体像だけでも、断片的な知識だけでも、その知識が血肉となることはない。
第I部「社会と人間の視座」では、主に『社会学的方法の規準』の記述から命題が選び出されている。具体的には、「社会的事実」、「制度」、「合理主義」、「一種独特なもの」、「人間の二元性」、「社会形態学」であり、いずれも基本的なものだが、誤解されやすいものである。個人の外部にあり個人を拘束する社会的事実(集合意識)を物として扱うのは、あくまで「単なる人間精神の内面の観察によっては知ることのできない性質をもっているからであり、未知の事実を科学の対象として研究する際の精神的態度」(p.6)をあらわすものである。この意味で自然界の物と同様なのであり、「社会的事実という対象objectがなければ、これを対象とする=客観的なobjective科学は原理的にありえない」(p.4)。
では、どうしてデュルケームは、そうした「峻厳な合理主義」に根差した社会学を必要としたのだろうか。それを浮き彫りにしているのが第II部「分業・連帯・社会病理」で選択されている各命題であり、……
目次
●エミール・デュルケームとは誰か
Ⅰ 社会と人間への視座
1.社会的事実
2.制度
3.合理主義
4.一種独特なもの
5.人間の二元性
6.社会形態学
■コラム:デュルケーム学派と社会学年報
Ⅱ 分業・連帯・社会病理
1.社会的分業と連帯
2.契約における非契約的なもの
3.刑罰進化
4.犯罪と正常/病理
5.自殺
6.アノミー
Ⅲ 道徳・家族・教育・政治
1.道徳の科学
2.道徳の三要素
3.道徳生活の美学
4.家族
5.教育
6.中間集団
7.デモクラシー
8.社会主義
■コラム:第三共和政
Ⅳ 聖なるものと集合表象
1.聖/俗
2.集合的沸騰
3.社会の理想
4.人格崇拝と道徳的個人主義
5.カテゴリー
6.集合表象と真理
■コラム:ドレフュス事件
Ⅴ デュルケーム学派と同時代の思想家
1.タルド:模倣
2.ベルクソン:閉じた社会/開いた社会
3.ジャネ:社会的人格
4.モース:贈与
5.アルヴァックス:集合的記憶
6.ギョカルプ:理想と変革
Ⅵ 批判と継承
1.バタイユ:至高性と交流
2.カイヨワ:遊びと戦争
3.ジラール:暴力と儀礼
4.パーソンズ:行為と社会システム
5.マートン:アノミー
Ⅶ 現代社会学への影響
1.ガーフィンケル:エスノメソドロジー
2.ゴフマン:儀礼的相互行為
3.バウマン:他者とともにあること
4.ルーマン:機能システムの無モラル性
5.ハバーマス:コミュニケイション的行為
6.ブルデュー:ハビトゥス