淡島正浩・川口規子・伊藤嘉高『診療報酬請求ハンドブック』(共著)~診療報酬請求事務能力認定試験に望むこと

前任校の仕事の成果(その1)です。4月からは医療事務(診療報酬請求事務)の教育から離れていますが、せっかくなので、自らの経験を踏まえた問題意識を記しておきたいと思います。

(社会学を専攻している私がなぜ医療事務教育を掲げる学科に在籍していたのかについては、こちらの記事

診療報酬請求事務能力認定試験で評価される「能力」とは

医療事務は民間資格が乱立しており、「資格商法」の汚名を着せられても仕方のない資格もありますが、最難関とされるのが「診療報酬請求事務能力認定試験」です(合格率は30%台前後)。

資格試験合格を大前提とする前任校(新潟医療福祉大学)では、この「診療報酬請求事務能力認定試験」が目指すべき資格のひとつであり、私も同資格の試験対策に携わることになりました。

とはいえ、「診療報酬請求事務能力認定試験」にも問題がないわけではありません。実務ではコンピュータによる診療報酬請求が行われているなかで、同試験では、書籍の診療点数早見表を引いて、電卓をたたいて、手書きで請求書(診療報酬明細書、レセプト)を作成しなければなりません。

しかも、レセプト作成(実技問題)にかけられる時間は実質2時間で、時間内に大きなミスなく書き上げなければなりません。そのためには、多くの学生にとっては「慣れ」が必要で、膨大な数の演習を重ねなければなりません。専門学校の場合には、主要な点数をすべて暗記してしまうほど、ひたすら演習を行うところも珍しくないようです。

そうした現状を聞けば、「果たして、そんなことをして、実務にも活かせる実力・応用力が身につくのか?」という疑問がまず浮かぶのではないでしょうか。個々の疾患や診療報酬項目の意味や背景を正確に理解することなく、字面だけを追いかけて、ただ素早く算定できるようになっても、仕方がないのではないか――。

ただ、実際に教育に従事することで気づいたのは、「診療報酬請求事務能力認定試験」の力点が「事務能力」そのものにもあるのではないかということでした。つまり、日本語を正しく理解して、ミスなく計算して、ミスなく筆記する力をみているわけです。

診療報酬請求事務能力認定試験に望むこと

診療報酬請求事務能力認定試験に合格するには、もちろん、診療報酬に関する多くの知識も必要ですが、出題がほとんどパタン化されているため、思考力はほんど必要ありません(毎回、過去のパタンにない「良問だなあ」と感心させられる項目も出ていますが、その項目が正確に算定できなくても合格できてしまいます)。

それが現状では「妥当」なのかもしれません。しかし、私個人としては、ICT化が否応なく進むなかでの医療事務の地位向上を考えると、今後は「診療報酬請求事務」の「最難関資格」としての性格を強めていってほしいと思います。

つまり、「事務能力」そのものに力点を置かず、試験時間を増やすか問題数を減らすかして、その分、思考力・応用力を要する(=パタン化されていない)問題を増やしてほしいのです(おそらく正当な理由があって学科試験も平易化しているので、上位資格を新設するのもあり!)。

本書の位置づけ

こうした問題意識のなかで、本書が刊行されます。本書の狙いは、パタン化されている問題に対して膨大な演習による「慣れ」によって対応するのではなく、本書で診療報酬の体系的な理解を促しつつ、資格試験の出題パタンも網羅することで(医療事務に精通する共著者の先生方の経験と知識が詰まっています!)、資格試験対策に膨大な時間を割くことなく着実に合格してもらうことにあります。

たとえば、レセプトの種別ごとに以下のような「チェックリスト」も掲載しています。慣れてしまえば、こんなリストはなくてもよいわけですが、このリストを見なくても済むぐらいまで慣れてしまう必要はないわけです。過去問も活用して、効率的に賢く解けるようになるほうが、よほど実力がつくのではないでしょうか。

このように効率的に資格試験をパスすることで、個々の疾患や診療報酬項目の意味や背景に踏み込んだ応用的な学びに意識を向けることができるようにもなります。資格試験合格は通過点にすぎません!

実際に、前任校(新潟医療福祉大学医療情報管理学科)では、DPC/PDPSに対する理解を深める講義や、直近の診療報酬改定について議論を行う演習科目を作って頂き、さらには他学科の学生と連携する連携総合ゼミ(詳しくはこの記事)も用意されています。そして、同僚の先生と実直な学生のおかげで、試験の年間合格率も私の在任中に過去最高を更新することができました!

前任校では社会学の研究者としてのキャリアという点では困難な面もありましたが、異なる分野で多くの優れた同僚と出会うことができ、お互いの問題意識を深め合い、具体的なかたちにできたことは、本当にかけがえのない経験となりました。

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