連携総合ゼミ(新潟医療福祉大学)~6学部13学科が連携した多職種連携の実践

現任校の新潟医療福祉大学では、4年次に「連携総合ゼミ」が開講されています。

連携総合ゼミには、学内6学部13学科はもちろん、日本歯科大学や新潟薬科大学、新潟リハビリテーション大学などの他大学、フィリピンや台湾などの海外大学の学生と教員が集まり、模擬患者やビデオ患者などを対象に、多職種による支援策を立案していきます。

私もまた、山形大学医学部勤務時からお世話になっている小児脳性麻痺の当事者である斎藤直希さんに模擬患者役を務めていただき、ゼミを開講しています。

斎藤さんが実際に経験された事例をアレンジして、斎藤さんと毎日のように対話を重ねることで、表面的なニーズやホープの背後にある患者さんの価値観、人生観に気づき、社会的・制度的な課題にまで踏み込む検討を行っています(非医療者である私は、毎回、ただ学ぶばかりです)。

2019年度

斎藤さんがかつて経験された右上腕骨頚部複雑骨折による入院から自宅生活への復帰を事例としました。さらに、それまで斎藤さんの介助を一手に担っていた母親が同時期に脳梗塞になり(実際には時期がずれていますが)、家族介助が一切見込めなくなるという要素を加えました。ゼミには、医療情報管理学科の髙野晃輔先生にも加わっていただきました。

(画像は、医療情報管理学科ブログより)

2019年度の学生が素晴らしかったのは、斎藤さんの24時間の生活を支える充実した支援策を作り上げて終わりではなく、「これは本当に実現可能なプランなのか?」と考え、「全員がケアマネになる」とのかけ声のもと、図書館での法制度の学習が始めたことです。そして、障害者総合支援法にたどりつき、利用可能なサービスを調べ上げるとともに、経済面の事情も踏まえたプランへと練り上げました。

さらに、何よりも素晴らしかったのは、最終的なプランを斎藤さんに確認いただいた際に「実際とのズレ」を指摘いただいた際に、単純に自分たちのスライドを直すのではなく、自分たちのプランと斎藤さんからの指摘を分けたスライドを作成したことでした。その結果、学生の実直さが伝わる発表になりました。

詳しくは、医療情報管理学科のブログ記事「2019年連携総合ゼミ報告~対話によって自分の壁を打ち破る」に書いています(参加学生のコメントも掲載しています)。

2020年度

2020年度は、急遽、オンライン開催となったため、参加者数も大幅に減ってしまい、少数精鋭でのゼミになりました。また、社会福祉学科の原口彩子先生、言語聴覚学科の伊藤さゆり先生にも協力教員としてゼミに参加いただきました。

今年のゼミでは、斎藤さんの主観的な情報をどう扱うかが焦点になりました。実際に、現場では「まずは、患者さんからの主観的な情報を脇に置いて考えましょう」と考える方がいらっしゃり、そうした方から実習指導を受けた経験がある学生もいるかもしれません。

もちろん、認知能力の低下した患者さんでは、主観的な判断の信頼性が低いケースもあると思いますが、斎藤さんは極めて明晰な方です。そして、参加学生が斎藤さんから聞き出した「主観的なQOLでいえば、10ないし9からゼロ近くに下がった」というのは、客観的なQOL指標からは決して出てこない情報でした。そして、その背景に、斎藤さんの人生が「母親とともに、マイナスをプラスに変える人生」であり、その姿勢を貫くことこそが生きがいであることを発見しました。

あくまで理想論ではあると思いますが、真の支援とは、以上のレベルでの理解がなければ成り立たないことを私も学びました。理想を胸に抱くことは悪いことではないはずです。実際に、原口先生からは、このレベルに達することで患者からの信頼が得られる(たとえば、リハビリで拒否されなくなる)という話をしていただきました。

オンライン開催でありながら、このレベルにまでたどりついた今年度の学生にただただ驚かされました。そこで、今年度は、参加学生に学科ブログ記事「連携総合ゼミに参加!~患者さんとの対話を実践する」を書いてもらいました。また、大学からのプレスリリースでも、本ゼミに参加した作業療法学科の学生がコメントを書いてくれました。

2021年度

今年度は、新潟連携教育研究センター長の松井先生のもとで、連携総合ゼミ実行部会長も務めることになりました。西澤新学長が掲げた「連携教育のさらなる充実」達成に向けて、各学科の委員の先生方とともにさまざまな取り組みを行い、オンライン開催ながらも過去最多の参加者数となりました。

(画像は、医療情報管理学科ブログより)

今年度の私のゼミは、参加学生と斎藤さんとの毎回の対話がほんとうに素晴らしく(斎藤さんからは「なんでも聞いてほしい。一切の遠慮はいらない」と事前にお伝えていただいています)、斎藤さんの価値観と人生観に深く入り込むことになりました。私の知らない(というか遠慮して聞けていなかった)エピソードも数多く伺うことができ、「なぜ在宅復帰したいのか」という問いの根源に触れることができました。

学生もオンライン慣れしてきたのか、すぐに打ち解け、さらには、オンラインの利点を最大限生かし、ときには、集まれる学生だけで夜の10時過ぎまで議論を重ねることもありました。「今年度こそ、コロナが収束したら全員で会いたい」と思わせてくれるゼミになりました。

今年度も参加学生に学科ブログ記事「連携総合ゼミに参加しました!~後輩へのメッセージ」を書いてもらいました。ぜひご覧ください!

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