2024年度学部ゼミ案内~人間と人間以外のものたちによるケアに根ざした地域社会学を構想する

2024年度社会学分野ゼミ説明会で配布する資料です。

まえがき

社会がさまざまなかたちで分断されるなかで、私たちは、いかにして「ともに生きていくこと」(共生)ができるのだろうか。社会学による調査研究は、どうすれば「ともに生きていくこと」に貢献できるものになるのだろうか。

この問題にアプローチするために、これまでの私は文化遺産、防災、防犯、医療、福祉などのフィールドで調査を進めてきた。そして、その基軸に据えてきたのが、ブリュノ・ラトゥールを旗手とするアクターネットワーク理論(ANT)である。

ANTは、同一性(「同じ存在」、「同じ人間」)を所与の前提とみなすことなく、万物はそれぞれに異なった存在であることを認めるところから出発する。そして、それでも、さまざまな同一性が構築されていくさまを記述するための方法である。たとえば、近くに住んでいるからといって、そこから自然に共同性が生まれることはない。人びとは互いに相異なる利害関心を有しているからだ。

そうした人びとを結びつけるのが、生活に関する何らかの「議論を呼ぶ問題」である。一つの答えが簡単には出ない問題をめぐって人びとが集まることで共同性が生まれ、議論や実践を重ねるなかで、人びとの利害関心が相互変容することで公共性が生まれる。利害関心もまた、さまざまな存在(人間と人間以外のものたち)とのつながりのなかで作られるものであるからだ。

したがって、共同性や公共性は、何らかの主体(利害)や構造(文化や歴史)に還元できるものではなければ、間主観的なものでもなく、非人間も含むさまざまな存在が連関するなかで構築されていくものである。

しかし、この議論には大きな問題がある。「議論を呼ぶ問題」に利害関心を有さない人びとや、損得勘定を抜きに関心を寄せる人びとの存在が等閑視されているからだ。実際には、狭い利害だけでなく、情動的、倫理的、身体的なケアの視点からも議論は呼ばれているし、呼ばれなければならない。

「ケア」は、これまで見過ごされ、無視され、放置されてきたものに対して「非規範的に」コミットメントし、そのありようを組み換えていく批判的実践として位置づけ直される。一例を示せば、環境保護の対象としてではなく、直接、水や土や生命とつながる感覚を取り戻すための実践である。

地域社会学は、そうした直接的な関わり合いを記述することで、さまざまな議論を喚起させ、さまざまな存在を結びつけるかたちでの地域社会の構築を促していかなければならない。そのための地域社会学の視座と方法を1年間かけてともに考えていきたい。

1学期

1学期は、ANTの基本的な発想を習得してもらうために、ラトゥールの『虚構の近代』(We have never been modern)を輪読する(なお、輪読の発表担当者は、私とのプレ発表をZoomないし対面で行い、本発表前に疑問点を解消できる)。同書は、近代主義がもたらす普遍主義/相対主義の二分法の隘路に陥っていた人文社会科学全般に対して第三の道を切り開いた(普遍主義は他者を抑圧し、相対主義もまた結局のところ他者への無関心に帰結する!)。同書を通して、主体/客体の二分法から脱却するとともに、「分かりやすい正義」にも「分かりやすい物わかりの良さ」にも逃げない知的胆力(のひとつ)を身につけることもできるだろう。

ただし、ラトゥールの議論を理解するためには、いくつかの人文学の素養が必要になる。そこで、まずは、準備編として、近代主義の問題と格闘してきた見田宗介(真木悠介)の『自我の起原―愛とエゴイズムの動物社会学』を読み(読みやすい!)、「他者から作用されてあること、つまり、何ほどかは主体でなくなり、何ほどかは自己でなくなることの歓び」について考える(全4回)。そのうえで、ラトゥールの前掲書と格闘し(全6回)、さらには、人間と人間以外のものたちによるケアの問題とスムーズに接続させるために、ダナ・ハラウェイの『伴侶種宣言―犬と人の「重要な他者性」』を読む(全4回)。

2学期

2学期は、上述したANT流の「議論を呼ぶ問題」に対して「ケアを呼ぶ問題」を掲げ、人間に限らず、人間以外の多様な種が「ケア」し合うことで共生する道を具体的事例を介して描き出したマリア・プーチ・デ=ラ=ベラカーサのMatters of Careを検討する。同書の議論は日本ではまだ十分に受容されていない。そこで、日本語の訳稿も提供するので(安心!)、内容理解とともに、訳稿の検討も行ってもらいたい。

卒業論文について

ゼミでは、4年生とともに卒論の構想・経過・結果報告&討論も行っていくが、月曜4限に行う余裕はない。そこで、全30回中25回程度は月曜5限も開講する(主ゼミ学生は参加必須、サブゼミ学生は希望者のみ参加)。3年次は、関心のあるテーマについて、研究の核となりそうな先行研究を集めて発表し、研究テーマをどう絞り込むのかについて全員で議論していく。その代わり、主ゼミ4年生は月曜4限への参加を任意にする。

なお、3年次の夏休み明けには卒業論文のテーマを絞り込んでもらい、3年次1月には先行研究を整理・検討した「ゼミ論」(4,000~8,000字程度)を提出してもらうとともに(卒論の第1章になる!)、具体的な調査対象を設定してもらい、一度はフィールドに入ってもらう(あくまで目安! 自分のペースで進めてもよい)。今のうちからさまざまな文献を読み進めてほしい(その分、就活や公務員試験には最大限配慮する)。

使用テキスト

  • 1学期:
    真木悠介『自我の起原―愛とエゴイズムの動物社会学』岩波現代文庫、2008年、1,100円.
    ブルーノ・ラトゥール『虚構の近代』川村久美子訳、新評論、2008年、3,520円.
    ダナ・ハラウェイ『伴侶種宣言―犬と人の重要な他者性』永野文香訳、以文社、2013年、2,640円.
  • 2学期:
    María Puig de la Bellacasa, Matters of Care: Speculative Ethics in More than Human Worlds, University of Minnesota Press, 2017, $30.00.

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