「まなざしの交錯とバリ島の村落社会」『変わるバリ 変わらないバリ』所収

伊藤嘉高, 2009, 「まなざしの交錯とバリ島の村落社会」倉沢愛子・吉原直樹編『変わるバリ 変わらないバリ』勉誠出版, 224-39頁.

これまでバリについて書かれた本の多くは「祭りと儀礼の島」や、「神々の宿る島」といったような、定型化されたイメージに修練されがちでしたが、本書は観光イメージに隠されたバリ人の生活へ立ち入り、歴史的、社会的な面に目を向けています。

要旨

バリ島のローカルな村落世界が、外部からのまなざしにさらされることで、いかに変容したのかを、現地でのフィールドワークに基づき記述し、今日のグローバル・ツーリズムの進展のなかでバリ・ヒンドゥーの「特殊性」を「普遍化」する営みがなされていることを明らかにした。つまり、ローカル/グローバル、特殊/不変は固定的なものではなく、常に実践に開かれているのである。

冒頭抜粋

二〇〇二年、二〇〇五年と複数回にわたる爆弾テロを経験したバリ島では、今日さまざまに「バリの文化」の復回が声高に語られている。そもそもは、スハルト政権末期、他の州と同様に、ジャカルタの中央集権的近代ガバメントへの反発として自身の文化の独自性が取りざたされたことを起因とする。しかし、やがてスハルト政権が崩壊すると、対抗すべき明確な「近代」が失われ、次にはグローバル化の波に飲まれ始める。そして、このグローバル化による負の影響に対応すべく、スハルト政権崩壊後の改革期において、(非イスラムである)バリ独自の同一性/アイデンティティ(クバリアン)を掲げることで特別自治(オトノミ・クスス)を求める声がバリ全体で高まっているのである。

本章では、そうした文化的同一性としての「バリ」の成立過程を社会学的な創発論の視点をベースとして歴史的に読み解くことで、バリのローカルな村落世界における「文化」と「生活」のゆくえを考えてみたい。

目次

はじめに(倉沢愛子/吉原直樹)

◆バリの歴史と政治
絶えざる対立と動揺の現代史(倉沢愛子)
国家と地域住民(鏡味治也)
バリにおける伝統と近代(中村 潔)
ヒンドゥーとイスラームの調和的共存(倉沢愛子)

◆観光とコミュニティの変遷
観光リゾート都市バリの光と影(今野裕昭)
バリ・コミュニティと多元的集団構成(吉原直樹)
ツーリズムと地域治安体制(菱山宏輔)

◆伝統のなかの人びと
エスニシティと移住者(永野由紀子)
「女の仕事にはきりがない」(中谷文美)
娯楽化するワヤン(梅田英春)
競争のなかのバリのテレビ放送(内藤 耕)
まなざしの交錯とバリ島の村落社会(伊藤嘉高)

◆ことばと「異国」
バリ語における尊敬語・謙譲語(ニ・ヌンガー・スアルティニ)
バリ言語社会の構成とバリ人の言語使用(原真由子)
ジャカルタから見た「異国」バリ(上野太郎)
バリの日本人(吉原直樹/イ・マデ・センドラ/イ・マデ・ブディアナ)

むすびにかえて 編者(倉沢愛子/吉原直樹)

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