2023年度学部3年ゼミ案内~「他者との共生」に貢献する社会学

★第1学期・第2学期(月曜4限)

「私の行為は私が決めているのではない」―社会学の根底をなすこの発見は、今日の「なんでも自己責任にされる社会」に対する強力なカウンターであるはずだ。しかし他方でこの言明は、(a)「私が悪いんじゃない! ××のせいだ」と主観的に自己正当化・自己合理化する責任逃れのレトリックにもなりうる。あるいは、客観性を装って、(b)「あなたの行為は××が生み出したものにすぎないんだよ」といったかたちで、他者の行為のかけがえのなさを毀損するものにもなりうる。

(a)、(b)いずれの言明も、調査対象者が発したものであれば、社会学を学ぶ者は真摯に耳を傾ける必要がある。しかし、社会学を学ぶ者自身が声高に主張すべきことではない。私たちは、「うまいことを言った者勝ち」の言葉遊びにたわむれるのではなく、「私の行為を決めているのは誰・何なのか?」という問いに対して、あくまで科学的に取り組むべきだ。

この問いに対して、社会学はさまざまな調査や研究を進め、「答え」を出そうとしてきた。しかし、どうして社会学者が一つの答えを出せると考えるのか。そもそも、一人の人間に過ぎない者が答えを出すというのは不遜ではないか。「そうは思わない。答えを出すのが科学ではないのか」、あるいは、「そう思う。何やら上から目線で感じが悪い」、いずれの人にもこのゼミを受講してもらいたい。

このゼミでは、「行為の責任の所在」などの社会的な問いに対して唯一の答えを出そうとしない社会学であるアクターネットワーク理論(ANT)を学ぶことで、社会学が「他者との共生」に貢献する科学としていかに調査・研究を行えるのかをともに考えていく。ANTの対象は、「人間」や「社会」にとどまらず、あらゆるものに広がる。


第1学期では、ANTが、人文社会科学の学問領野を超えて世界的な流行を見せるきっかけとなった書籍『社会的なものを組み直す』を精読する。かなり難解な書であり負担は大きいが、全員でとことん議論を重ねながら読み進めるので、あなたにとって無駄な時間にならないことは保証する。また、4年生を中心とする卒論経過報告も並行して行うため(※その代わり、基本的に私のゼミでは卒論の個別指導は行わない)、全15回中7回程度は月曜5限も開講する可能性があるので留意してほしい(主ゼミ学生は参加必須、サブゼミ学生は参加任意)。ちなみに、3年夏休み明けには卒業論文のテーマを絞り込む必要がある。

第2学期では、ANTに近い質的調査を実践している『概念分析の社会学』を輪読することで、具体的な調査法とその成果を学びながら、既存の調査研究や身近な社会学知を俎上に載せ、ANTによる読み替えを実践することで、卒業論文作成に向けた訓練を行う(ただし、卒業論文ではANTを実践する必要はない!)。また、1学期と同様に月曜5限も開講する可能性があるので留意してほしい(2学期は3年生も卒論構想発表会に向けた経過報告を行う)。

予定テキスト

  • ブリュノ・ラトゥール著(伊藤嘉高訳)『社会的なものを組み直す―アクターネットワーク理論入門』法政大学出版局、2019年、5,940円
  • 酒井泰斗ほか編『概念分析の社会学2』ナカニシヤ出版、2016年、3,520円

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