「がん対策基本法」「がん診療連携拠点病院」「がん登録」「医療費」「人間ドック」『がんを知る』所収

山形大学医学部編『がんを知る』(2015年、山形大学出版局)所収。

本書は、がんという病気に関係する全てのものを網羅し、がん患者さんの不安を取り去るために専門家が適切にアドバイスしたもの。山形新聞の連載を単行本化。

「がん対策基本法」冒頭抜粋

国を挙げた「がんとの闘い」が始まっています。二〇〇六年六月に「がん対策基本法」が国会で成立し、〇七年六月には同法にもとづき数値目標や達成時期などを設定した基本計画(がん対策推進基本計画)がまとめられました。

同法の背景には、納得できる医療を求めてさまよう「がん難民」の存在がありました。そこで、基本法および基本計画では、そうした難民をなくすことを目指すべく、以下の課題に積極的に取り組むことがうたわれました。すなわち、全国でがん診療の拠点病院を整備し、がんの治療水準の地域差を解消すること。痛みを和らげる緩和ケアの充実。がん検診によるがんの早期発見。がん登録の推進などに取り組むことなどです。

今回から、数回に分けて、がん対策基本法成立以降の制度上、政策上の動きを見ていくことで、大きく変わりつつある日本のがん医療の流れを読み取っていくことにしましょう。 そもそも、がんの治療は、……

「がん登録」冒頭抜粋

がん対策基本法で掲げられている重点課題は、放射線治療・化学療法、緩和ケア、がん登録の三つです。今回は、がん医療の屋台骨をなす最後の「がん登録」について紹介します。

がん登録は、がんと診断された患者さんについて、個人情報を適切に保護した上で、がんの種類、進行度、治療、その結果などを詳しく登録して分析する仕組みです。さらには、検診は役立っているのか、禁煙によってがんは減ったか、生活習慣の改善がどの程度の予防効果があるのか、といったことを明らかにする資料にもなっています。

がんによる死亡は死亡届で把握することができますが、がんごとの生存率の算定などに必要な罹患率や治療後の改善率は、がん登録でしか把握できません。つまり、がん登録のデータによってはじめて、科学的根拠に基づく適切ながん医療を国民に対して提供することが可能になるのです。

がん登録は、先進国のみならず多くの国で……

「がん医療費」冒頭抜粋

がんの医療費は年々増加を続けており、2015年には約3兆円になると推計されています。がんの治療・療養は長期にわたり、再発・転移があれば再入院が必要になり、最新の治療技術はしばしば高額であるからです。これに対抗して、公的な医療費を抑制しようとすれば、患者の自己負担額が上昇することにもなりかねません。今回は、がんをめぐる医療費について見てみましょう。

2008年の全日本病院協会の報告によれば、全国で胃がんの手術を受けた患者の平均在院日数は23.0日、医療費は平均で100万410円でした。ただし、実際に病院の窓口で支払うお金は、自己負担1割の場合は10万41円、3割負担の場合は30万123円になります。

表からわかるように、がん手術の医療費の自己負担額は、3割負担の場合、約20~30万円が目安になります。なお、肺がんなどの放射線治療の場合は、外来通院が多いこともあり、多くの場合は、手術の三分の一程度の費用になります。

ただし、ほとんどの人が加入している健康保険の「高額療養費制度」を用いることで一月当たりの負担額を軽減させることができます。……

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