「山形県内病院における医療型療養病床の運用実態―地域一体的な慢性期医療の構築に向けて」『日本医療マネジメント学会雑誌』15巻1号掲載

伊藤嘉高, 村上正泰, 2014, 「山形県内病院における医療型療養病床の運用実態―地域一体的な慢性期医療の構築に向けて」『日本医療マネジメント学会雑誌』15 (1): 19-24.

要旨

機能分化と連携による医療提供体制の構築が目指されているが、山形県内では依然として療養病床数が不足しており、急性期病院からは療養病床の整備を求める声も強い。本稿では、医療型療養病床を有する山形県内の全ての病院を対象に、入院患者の実態調査を行った。その結果、山形県の療養病床では、医学的必要性を理由としない入院が30%以上見られ、退院可能と判断されたが入院を継続している患者の割合が全体の40%強に達した。医療依存度の高い患者は相対的に低く、一般病床での受け入れが広く見られた。特にケアミックス型の病院では、制度設計上は療養病床に入院すべき患者が一般病床に入院しているケースがあると考えられる。今後、病床機能の分化及び再編を行い、患者及び利用者の流れをスムーズにするためには、地域ごとに、病床の運用実態のみならず、施設及び在宅の状況も織り込んだビジョンを策定し、実行することが必要である。

冒頭抜粋

超高齢社会における医療需要の増加が見込まれるなか、診療報酬改定などの政策的手段により、地域内連携の推進などとともに平均在院日数の短縮が求められている。病院の機能分化及び連携の狙いは、効率的な医療提供の他に、漠然とした長期入院治療や廃用症候群を防ぎ、退院後の日常的な生活の質を維持することにもある。しかし、医療機関の連携が十分進んでいない地域では、長期入院はもとより、治療の方向性が不明確なまま転院したり、医療機関や介護施設を行き来し、結果として患者の生活の質を大きく損ねているケースも依然として見られる。

さらに、印南によれば、必ずしも医学的な理由がないなどの「不適切な入院」を「社会的入院」として捉えると、その全国患者数は約20~30万人に達すると推計されている。ただし、印南の調査は有効回答率が5.1%(391施設)に留まっており、代表性が担保されていない点に留意が必要である。いずれにせよ、急性期以降の病床機能の未分化は急性期医療の展開に大きな支障を生じさせる要因となる。

今後の超高齢社会の進展のなかでは、慢性期医療の実態と課題を踏まえた包括的な医療・介護提供体制を構築することが鍵となる。そこで、本研究では、医療型療養病棟を有する山形県内の全ての病院を対象に、入院患者の実態調査を行い、超高齢社会における地域医療提供体制の構築を視野に、慢性期入院医療の実態とその課題を明らかにした。……

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