【書評】アクターネットワーク理論による法の『本質』をめぐる議論―ブルーノ・ラトゥール『法が作られているとき』(『図書新聞』掲載)

ブルーノ・ラトゥール著、堀口真司訳『法が作られているとき―近代行政裁判の人類学的考察』(2017年、水声社)の拙評が『図書新聞』3363号に掲載されました(発売日2018年8月4日)。

『法が作られているとき』は、近代国家における行政制度の原点といわれる「フランス行政法」の頂点にいまも君臨する「フランス行政最高裁判所」に、ラトゥールがさまざまな制約や障害を乗り越えつつ、奥深くまで潜り込んだモノグラフです。

冒頭抜粋

ブルーノ(ブリュノ)・ラトゥールに代表されるアクターネットワーク理論(以下、ANT)は、人間を含むあらゆる事物をフラットに扱うための方法論として、社会科学にあまねく影響を及ぼしている。さらには、哲学、美学、建築学などでも受容されて久しい。ラトゥールは、今日の人文社会学界の明星の一人といってよい。そのラトゥールが法の「本質」を扱ったのが本書である。

ただし、「本質」は常に実践のなかにある。ラトゥールは、法に対して距離をおいて勝手な社会的説明を行ったり、形式主義といったレッテルを貼ったりすることなく、フランスの行政最高裁判所でフィールドワークを行い、非公開の会議や業務を観察する。

本書で扱われるのは、外国人追放やゴミ箱や自治体に関する個別具体的な事案に対する審理である。これらの事案は、審理によって、行政法全体や憲法、人権規約などと結びつけられる。しかし、そこで見られるのは、事実と法を取り替える形式的なプロセスではない。ためらいと躊躇、曲がりくねった筋道、あてどない内省といった泥臭い「法的」推論なのである。……

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