「山形県一般病院における医師不足の現況」『山形医学』29巻1号掲載

伊藤嘉高, 村上正泰, 佐藤慎哉, 嘉山孝正, 2011,「山形県一般病院における医師不足の現況」『山形医学』29 (1): 1-19.

要旨

「医療崩壊」と呼ばれる現象が全国的に問題になるなか、エビデンスに基づいた地域レベルでの医療政策・医療計画の策定が求められるようになっている。

そこで、われわれは、地域医療政策や医療計画策定のためのデータベースを構築すべく、2008~2009年にかけて県内全一般病院を対象に、医療提供体制、診療実績に関する網羅的な調査(量的調査および施設長を対象とした質的調査)を実施した。本稿では、同調査の結果から、主に医師不足に焦点を当てて、県内一般病院における医療提供体制の現状と課題を明らかにした。

まず、医師数については全県で一定数の増加がみられるものの、医療需要との関係から見ても、全国レベルでの医師不足よりもさらに深刻な医師不足にあることに変わりはなかった。増加分は村山二次医療圏の三次医療機関に集中しており、相対的に医師不足が進んでいる他の医療圏では、現状の医師数の維持がやっとの状況である。

診療科別では、全国的な動向と同じく、産婦人科、外科系、小児科の医師不足がみられ、しかも、これらの診療科は全国的な不足状況よりもさらに不足している(なかでも産婦人科は常勤医師数も減少している)。また、山形県では内科系の医師不足も深刻である。

それでも山形県では、山形大学のイニシアティブによる医療機関の再編・機能分化の推進、さらには、地域の実情を踏まえた大学医局からの非常勤の出張医の増加によって、医師不足の悪影響が顕在化する事態が未然に防がれている。

他方で、大学とのつながりが弱い非基幹病院が多く位置する庄内二次医療圏では、民間医師派遣会社への依存が強まっている。こうした回復期・慢性期医療を担う非基幹病院の医療従事者の安定的な確保も、今後の地域医療連携、地域医療計画を考える上で大きな課題である。

本稿で見た不足医師数はあくまで概算的なものである。今後は、医師の過重労働を加味したかたちでの診療科別の必要医師数の推計を進めたい。

冒頭抜粋

今日の医師不足問題をはじめとした「医療崩壊」と呼ばれる現象が端的に示しているように、中央主導による医療提供体制の現状把握および体制整備の限界が指摘されて久しい。こうしたなかで、医療における地域特性を踏まえ、地域医療計画など、都道府県レベルでの客観的なエビデンスに基づいた医療政策・医療計画の策定が求められるようになっている。しかし、実際には、都道府県レベルでも医療提供体制について、現場の諸課題に即応した政策を立案できるだけの具体的なデータの集約が進んでいるとは言い難い。

こうした状況のなかで、山形県では、山形大学医学部がイニシアティブを取り、2005年に山形県健康福祉部と山形大学蔵王協議会共催による「山形県内医療施設における患者動向及び医療従事者等に係わる現状調査」が実施され、今日の医療機関情報ネットワークの先駆けとなるような医療提供体制、診療実績に関する網羅的なデータを収集するとともに、2006年には、医療政策学講座と山形県健康福祉部が共同で県内医療施設の施設長対面調査を実施している2)。そして、2008年には以上の調査等で得られた現場の知見に基づき第5次山形県保健医療計画が策定されている。また、上記調査の結果は、山形大学医学部の医師適正配置委員会の資料としても活用されるなど、県内の安定的な医療提供体制の構築にも資している。

ただし、上記調査から数年が経過し、県内の医療提供体制が変化するなかで、データのアップデートが求められている。そこで、再び、山形県健康福祉部と山形大学蔵王協議会主催により「山形県内医療施設における患者動向及び医療従事者等に係わる現状調査」(2008年)および、「山形県内一般病院病院長対面調査」(2009年)が実施され、医療政策学講座が実際の調査・分析に当たった。

本稿では、上記2調査の結果から、主に医師不足の状況に焦点を当てて、県内一般病院における医療提供体制の現状と課題を明らかにする。……

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