単一のイデオロギーを離れて~清水晋作『公共知識人 ダニエル・ベル―新保守主義とアメリカ社会学』御恵送

清水晋作著『公共知識人 ダニエル・ベル――新保守主義とアメリカ社会学』勁草書房、2011年。

概要

新保守主義の旗手とみなされてきた社会学者ダニエル・ベル。本書では彼を、単一イデオロギーでなく豊穣な思想的立場の公共知識人として捉え直す。新保守主義はなぜアメリカや世界で強い影響力があるのか? リベラルにも新保守にも行き詰まる日本社会が模索すべき理念とは? ベルの理論的視座が混沌とした現代社会に切り込む。

所感

大学院生時代の社会学研究室の先輩である清水さんからご恵送いただきました。早速、拝読しました。本来であれば、「新保守主義を内在的に分析し、その特質やそのイデオロギーの影響力の源泉を突き止めるという作業が必要なのではないか」(p.1)との宣言から始まる本書の企図について、私なりの愚見を明らかにするべきところですが、まだ十分に消化できていないため、個人的な感想を記します。

私はかつて、現実離れした理念をかかげ、高所から独り善がりに現実を批判して悦に入る悪い癖があり、その当時は「イデオロギーとユートピア論」(第5章)について相当に異なる考え方をしていましたが、現在の自分は、ほぼ完全に首肯できました。

そして、終章にいたり、「自ら理念を確固として持ち続け、決して新保守主義化の流れに身を任せず、しかしその流れのなかでぎりぎりの実践的可能性を追究したというのが、彼の一貫した立場であった」(p.283)との一文に接し、遅ればせながら、なぜ清水さんがベルを研究しているのかを私なりに理解することができました(浅はかな理解であれば申し訳ありません!)。

私が現在取り組んでいる医療政策学の分野では、二木立さんと主導的な立場の方が同じく勁草書房から最新著『民主党の医療政策』を著しています。彼もまた、医療制度改革について、自らの政治的スタンスを明確にしながらも、リアリズムとヒューマニズムの「複眼的視点」からの検討を20年以上積み重ねており、必要なのは(規制緩和論者が言うような)「抜本的な改革」ではなく「部分的な改革の積み重ね」であることを繰り返し繰り返し論じています。

そして、私自身、医療政策をめぐる現実の流れに身を置くなかで、「抜本的な改革」を主張する者たちは、一見、勇ましく見えるけれどもベルの言葉を借りれば「複雑性」(p.155)を無視しており、まったく信用と信頼を欠いた存在であることを知りました。

そして、私は、本書を通して、「理念」に目をくらませることも「現場」に埋没することもなく、知的誠実さを体現できるような研究を積み重ねていきたいと決意しました。

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